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東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)182号 判決 1973年11月28日

原告 株式会社渋谷西村総本店

被告 国税不服審判所長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  渋谷税務署長のした左記各処分に対する原告の審査請求について被告が昭和四六年四月二七日付でした各裁決を取消す。

(一) 昭和四四年一一月二七日付でした原告の昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出承認の取消処分

(二) 昭和四四年一一月二九日付でした原告の昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度および同年一一月一日から昭和四〇年一〇月三一日までの事業年度の各法人税についての各更正(四次)処分

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、渋谷税務署長より青色申告書提出承認を受けていた株式会社であるが、昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度および同年一一月一日から昭和四〇年一〇月三一日までの事業年度の法人税について確定申告したところ、渋谷税務署長は、昭和四四年一一月二七日付で原告の昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出承認の取消処分をするとともに、昭和四四年一一月二九日付で原告の前記二事業年度の法人税についての各更正(四次)処分をした。そこで原告は、同年一二月二四日渋谷税務署長に対し、右各処分について異議申立てをしたところ、右異議申立ては昭和四五年一月一三日をもつて審査請求とみなされ(以下、本件審査請求という。)、被告は、担当審判官および参加審判官の議決に基づき、昭和四六年四月二七日付で、右取消処分にかかる審査請求については棄却の、右更正(四次)処分にかかる審査請求について原処分一部取消しの各裁決(以下、一括して本件裁決という。)をし、その裁決書は、同年五月一二日原告に送達された。

2  しかし、本件裁決の基礎となる議決は、つぎに指摘する事由により違法であるから、本件裁決もまた違法といわなければならない。

(一) 構成面の違法

東京国税不服審判所所属の国税副審判官である緒方奎太は、本件審査請求につき、担当審判官の命を受け、調査、審理の事務を補佐し、事務の整理にあたつた。しかし、同人は、つぎに述べる理由により、右職務を担当するについて欠格者というべきであるから、本件裁決の基礎となる議決には、それをなす合議体の構成員に欠格者を参加させたばあいと同視すべき違法がある。

渋谷税務署長は、本件審査請求の対象とされている前記処分をなす以前に、いずれも昭和四二年一二月二六日付で、原告の昭和三六年一一月一日から昭和三七年一〇月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出承認の取消処分および請求原因1記載の原告の二事業年度の法人税についての各更正(二次)処分をした。そこで原告は、昭和四三年一月二四日右各処分に対して異議申立てをしたところ、右異議申立ては、同年二月二二日をもつて審査請求とみなされ(以下、第一次審査請求という。)、東京国税局長は、協議団の議決に基づき、昭和四四年九月一〇日付で原処分取消しの各裁決をしたものであるが、当時東京国税局協議団所属の協議官であつた緒方奎太は、担当協議官として右協議団の議決に関与した。

ところで、国税不服審判所が創設される以前に存在した協議団は、国税局の附属機関であり、執行機能を有する国税局長の指揮下にあつてその強い影響を受け、国税庁長官通達と異なる解釈をすることは困難であつたから、実質的には執行機関とみるべきものである。

したがつて、緒方奎太は、かつて右のような執行機関の一員として第一次審査請求の議決に関与したことになるから、協議団制度とは異なり、執行系統の機関から完全に独立した第三者的な審査機関として設けられた国税不服審判所制度の趣旨を生かし、予断を排して裁決の公正さを保つためには、本件審査請求において、当然に、前述した職務の担当から排除されるべきであつた、といわなければならない。

(二) 手続面の違法

本件裁決の基礎となる議決には、その事実認定の公正さを疑わせる資料収集手続上の違法がある。

緒方奎太は、つとに第一次審査請求において、主として西村末子名義の預金の発生原因につき、原告代表者および西村末子から詳細な事情聴取をしている。しかし、右調査の法的根拠は、収税官史と同様な質問検査権(法人税法一五三条)であり、このような協議官の有する調査権は、国税不服審判所制度のもとで国税審判官およびその補助者たる国税副審判官に対して認められている審理のための質問検査権(国税通則法九七条)とは根本的に異なる。すなわち、担当審判官らは、審査請求人および原処分庁を対等にみて、第三者的立場で独自の質問検査権を行使するのであり(協議官のように、国税局、税務署の当該職員に調査を嘱託することはできない。)、審査請求人らが質問に応じなかつたとしても、罰則の適用はなく、ただ裁決手続において不利益な扱いをするにとどまる。昭和四五年法律第八号による国税通則法の一部改正が行なわれた際、衆、参両議院大蔵委員会は、国税不服審判所の職員の質問検査権の行使につき、それが納税者の権利救済の趣旨に反しないよう十分配慮すべき旨決議している。このように、法的性質を異にする調査権を同一人が同一事案について行使したのであるから、本件裁決の基礎となる調査は、それに先だつて行なわれた右の調査の結果に強く左右されたと疑うに足りる十分な理由があり、したがつて、本件裁決もその事実認定の公正さが疑われる点において違法というべきである。

3  よつて、原告は本件裁決の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否および主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(一)の事実中、緒方奎太が本件審査請求において原告主張のような職務を担当したこと、本件審査請求に先だつて、原告主張のような経緯で第一次審査請求がなされ、緒方奎太が原告主張のように協議団の議決に関与したこと、協議団が国税局の附属機関であつたことは認めるが、その余の点は争う。

3  同2の(二)の事実中、緒方奎太が第一次審査請求において、原告主張のような調査をしたことは認める。協議官および担当審判官等の質問検査権が根本的に異なるとの点ならびに本件裁決の基礎となる調査に公正さを疑われる違法事由が存するとの点はいずれも争う。

4  構成面からみた適法性

国税不服審判所設置以前には、国税局長は執行機能と事後の補正機能とを併せて持つていたもので、国税局には執行機能をはたす賦課徴収部門と、補正機能を専門的に担当する審査部門としての協議団とが、それぞれ別の組織として設置されていたものである。

すなわち、協議団は内国税に係る不服申立てについて審理し、議決に関する事務をつかさどつていたものであり(国税庁協議団及び国税局協議団令一条一項)賦課徴収を行なう執行機関とは全く別の系統に属する納税者の正当な権利を救済するために設けられた審査機関であつた。

したがつて、形式において、協議団が国税局長に所属していたことをもつて、直ちに協議団を実質においても執行機関と断定し、これを前提として展開された原告の主張はすべて理由がない。

のみならず、国税副審判官である緒方奎太が本件審査請求において原告主張のような職務を担当したことが適法であることは、つぎに述べる点からみても明らかである。

(1) 一般に、審査請求事件の調査、審理については、国税通則法七九条二項により「国税審判官は、国税不服審判所長に対してされた審査請求に係る事件の調査および審理を行ない、国税副審判官は、国税審判官の命を受け、その事務を整理する」と定められ、さらに、昭和四六年二月一五日国管(管)一三四(例規)審査事務提要第四節二三により「担当審判官としては、合議体の中心となつて調査、審理を推進する職責を有するのであるから、問題解決の重要な鍵となるべき要調査箇所等については、自ら実地に調査に臨むよう配意するとともに、常に調査の進ちよく状況をは握し、また、参加審判官と連絡を密にして、適時に合議を開き、問題点についての意見の交換を十分に行ない、審理を尽くすように努める。」と定められている。

すなわち、事件の調査、審理は、担当審判官が中心となり参加審判官と十分連絡をとり、適時に合議を開き、意見の交換を行ない、審理を尽くしているもので、その過程において必要な調査事項について担当審判官等は補助者に命じ、調査を行なわせ調査資料を提出させているものである。

これを本件審査請求に関する調査、審理について述べると、緒方奎太は、昭和四五年五月一二日に担当審判官より当該事件について補助者となることを命ぜられたため、同年一〇月八日原告事務室に担当審判官とともに臨場して、原告の代表者西村敏男と面接のうえ事情聴取を行ない、また、その翌日、担当審判官より調査事項の指示を受け、その指示に基づいて原処分庁および原告等より提出された関係書類について書面審理を行なつている。その後その調査結果により、同月二二日に担当審判官および参加審判官二名の三名による第一回の合議が行なわれ、その結果、原告の会長である西村末子より事情を聴取する必要が認められたため、緒方奎太は、担当審判官の命により、その翌日同人と面接して、要調査事項について事情聴取を行なつている。そして、その結果を検討するため、同月二七日第二回目の合議が行なわれたが、その際、さらに、参加審判官より東京国税局直税部の意見を聴くよう緒方奎太に指示があり、その結果を得たところで同月三〇日に最終合議が行なわれ、国税通則法施行令三五条による議決が同日行なわれたものである。

以上述べたとおり、事件の調査、審理は担当審判官が中心となつて参加審判官と意見を交換し、適時合議を行ないながら審理を尽くしているもので、補助者が予断、私情をさしはさみ、これが議決に影響を及ぼすおそれはないのである。

ちなみに、本件議決の合議体の構成は、担当審判官加納貞、参加審判官松富善行および森信雄と指定され、この三審判官をもつて合議体が構成された。

(2) 緒方奎太は、原告の第一次審査請求を審理した当時は東京国税局協議団所属の協議官であつたが、昭和四五年五月一日国税通則法の一部を改正する法律(昭和四五年法律第八号)により、協議団にかわり国税不服審判所が創設され、協議団が廃止されたので、これに伴い東京国税不服審判所の国税副審判官に配置換えとなつたことから、原告の本件審査請求の事務の整理にあたつた時は、東京国税不服審判所所属の国税副審判官となつていたものである。

ところで、協議団も国税不服審判所も、ともに納税者から提出された審査請求を取り扱う機関であり、その間に上級庁下級庁の関係はないのであつて、第一次審査請求の審理等を担当したものが、第二次審査請求の審理等に関与したからといつて、なんら違法とはいえない。むしろ、本件審査請求については、事情に精通している緒方奎太を担当審判官の補助者として調査、審理の事務を補佐せしめることは、審査請求人等の便宜の点および事務の能率上等の見地からして当然の措置である。さらに、原告が渋谷税務署長に対し、のちに本件審査請求とみなされた異議申立てをなした際、原告の代理人和田金重は、同署の異議事務を専担していた上席調査官畠中幸吉に対し「新担当官に再び始めに戻つて説明を操り返す手数を省略するため、国税局協議団で審理されることを希望する。」旨述べ、昭和四五年一月一三日付で異議申立てを審査請求として取扱うことの同意書を同署長に提出している。

以上の事情に照らしても、本件第二次の審査請求についての担当審判官の補助者としては、緒方奎太が最適任者であり、同人を担当審判官の補助者としたことについてなんら違法はない。

5  手続面からみた適法性

本件裁決は、前述のとおり、適法に構成された合議体の議決に基づき、国税通則法九八条の定めるところにより、適法に行なわれており、その審理手続になんら違法はない。

協議団当時の協議官は、法人税法その他の各税法の質問検査権により審査請求の審理に必要な調査を行なつても、それは課税のためではなく、あくまで納税者の正当な権利救済のため行なわれたもので、法人税法等の質問検査権の規定が、この目的のもとに行なわれる調査には適用されないとする理由は全くないし(異議申立てについては現在もこれによつている。)、また、それによつて収集された資料が、第三者的立場から逸脱して収集されたものと疑われる理由もない。

なお、国税不服審判所を創設するにあたり、審理のための質問、検査等の規定が、新しく国税通則法に設けられるに至つたが、それは、法人税法その他各税法の質問検査権の規定が、本来国税不服審判所の審理に適用さるべきものでないという理由によるものではない。その理由は、審査請求の審理のための調査権は審査請求人の権利の救済を図るために行使されるものであるから、法人税法等における質問検査権のように審査請求人等に罰則を科することは相当でなく、審査請求人等が調査に協力しない結果、審査請求人の主張を明らかにすることが著しく困難になつたときは、その主張を採用しないこととすれば十分であるとの考え方にたつて、国税通則法九七条四項においてそのような場合には審査請求人の主張を採用しないことができる旨を規定するとともに、罰則は、審査請求人およびその特殊関係者以外の第三者について適用するに止める等規定の改善を図つたものである。したがつて、原告のこの点の主張も全く理由のないものである。

さらに、本件裁決に関する資料収集について附言するならば、右裁決は、審査請求人の提出した諸資料、原処分庁より提出された処分の理由となつた事実を証する書類および協議団ならびに国税不服審判所において調査した課税要件事実に関する資料等のすべての関係資料により、合議体が慎重に審理し、議決したところに基づいてなされているもので、公正さを疑われる余地は全くなく、その手続においてもなんら違法はない。

三  被告の主張に対する原告の反論

1  構成面からみた適法性(被告の主張4)について

かりに、協議団が国税局長の有する補正機能のみを担当する審査機関であつたとしても、その権限、組織において、国税不服審判所とは本質的差異があることを決して看過することはできない。多数の国税副審判官(定数一三三名)がいるにかかわらず、「事情に精通している」との理由で、緒方奎太を本件審査請求の調査担当者に指名したことは、右のような制度的差異に対する根本的な認識を欠き、予断をもつて審理、議決したことを自認するものである。なお、被告が主張する原告の代理人和田金重の発言は、国税不服審判所発足前のことであり、本件裁決とは関係がない。

2  手続面からみた適法性(被告の主張5)について

協議団当時の協議官が各税法上の質問検査権を審査のためにのみ行使するといつても、この点について、担保するものは何もない。そして、本件審査請求の調査にあたつては、第一次審査請求の際に調査した事項以外に新たな事実は全くなかつた。したがつて、本件裁決は、形式上国税不服審判所制度上の議決に基づいてなされているが、実質上は、旧協議団と同種の議決に基づくものといえる。

第三証拠<省略>

理由

請求原因1の事実、すなわち、原告の本件審査請求について、被告が、担当審判官および参加審判官の議決に基づき、昭和四六年四月二七日付で本件裁決をし、その裁決書が同年五月一二日原告に送達されたことは当事者間に争いがない。

そこで、本件裁決の基礎となつた右議決について、原告の主張するような違法事由が存するか否かについて判断する。

(構成面について)

本件審査請求については、東京国税不服審判所所属の国税副審判官である緒方奎太が、担当審判官の命を受け、調査、審理の事務を補佐し、事務の整理にあたつたこと、ところが、右緒方は、本件審査請求より以前に原告から提起された第一次審査請求においては、東京国税局協議団所属の担当協議官として、東京国税局長が昭和四四年九月一〇日付でした裁決の基礎となる協議団の議決に関与したことは、いずれも当事者間に争いがない。

ところで、原告は、協議団制度とは異なる国税不服審判所制度の趣旨を生かし、予断を排して裁決の公正さを保つためには、右緒方は、本件審査請求において当然にその職務の担当から排除されるべきであり、これに反した前記議決には、それをなす合議体の構成員に欠格者を参加させたばあいと同視すべき違法がある、と主張するので、この点について検討する。

国税副審判官は、国税不服審判所またはその支部に置かれ、国税不服審判所長に対してされた審査請求にかかる事件の調査および審理を行なう国税審判官の命を受け、その事務を整理することを本来の職務とし、国税不服審判所長の指名があつたときに限り、参加審判官として議決に関与するものであるが(国税通則法七九条一項ないし三項、九八条三項、国税不服審判所組織令一条、国税不服審判所組織規程四条)、国税不服審判所の組織、手続を定めている国税通則法およびその関係附属法令の中には、国税副審判官が、具体的な事件において、一定の事由があるばあいに、法律上当然に、または一定の手続を経たうえで、右の職務の執行から排除され、または右の職務執行から回避することができる旨を定めた規定は全く存しないから、法は、国税副審判官のうちのいかなる者を当該事件の担当者(いわゆる分担者)として指名するかは、全くこれを担当審判官の便宜裁量に委ねているものと解せられる。したがつて、右のような裁量の範囲においては、場合によつて不当となることがあつても、違法となることはないといわなければならない。本件についてみると、証人緒方奎太の証言によれば、本件審査請求は、東京国税不服審判所において審理されたところ、昭和四五年五月中頃同所長により加納貞が担当審判官として指定されたこと、加納審判官は、その所属する第一部に配置されている二名の国税副審判官の手持ち事件数、その進ちよく状況を勘案し、所長の同意を得て、緒方を本件審査請求の分担者として指名したことが認められるのであつて、緒方が本件審査請求を担当したことはなんら違法ではない。

ちなみに、訴訟もしくはそれ以外の裁判またはこれに準ずるものに関与する裁判官、裁判所の職員その他の者については、法律上除斥、忌避および回避の制度がもうけられているが(民事訴訟法三五条ないし四四条、七九二条、非訟事件手続法五条、民事調停法二二条など)、これは、これらの手続が、司法権の作用として、独立かつ公正な第三者である裁判所で行なわれるものであり、これにあたる者の職務執行の公正さを図り、これに対する国民の信頼感を維持することが必要であるという制度本来の要請に基づくものであるから、多かれ少なかれ争いの当事者である行政庁自らが、行政権の作用として、簡易迅速な略式の手続によつて争いを解決し、このことによつて国民の権利利益の救済を図り、あわせて行政運営の適正化を確保することを目的とする行政不服申立て手続(国税不服審判所においては、国税不服審判所長が国税局の執行系統の機関からは独立して裁決権を行使し、国税庁長官通達には拘束されない等の点においては、従前の協議団制度と異なる面もあるが、行政不服申立て手続内の裁決機関であることには変わりはない。)について、右の規定を準用もしくは類推適用する余地がないことは当然である。

これを要するに、原告の主張は、全く独自の見解であつて、とうてい採用することはできない。

(手続面について)

つぎに、原告は、緒方副審判官は、かつて担当協議官として、国税不服審判所制度のもとで認められている審理のための質問検査権とは異なる収税官吏と同様の質問検査権により原告を調査しているのであるから、本件裁決の基礎となる調査が右のように法的性質を異にする調査結果に強く左右されたと疑うに足りる十分な理由があり、前述した議決には、その事実認定の公正さを疑わせる資料収集手続上の違法がある、と主張するので、この点を判断する。

国税不服審判所における審査請求の審理手続については、行政不服審査法に対する特別規定として、国税通則法九一条以下の規定がこれを定め、ひろく職権主義を採用しているが、国税副審判官については、担当審判官の嘱託により、またはその命を受け、審査請求人もしくは原処分庁または関係人その他の参考人に質問すること、あるいはこれらの者の帳簿書類その他の物件を検査することが認められているのである(国税通則法九七条二項)。本件においては、証人緒方奎太、同和田金重の各証言によれば、緒方副審判官は、加納審判官の指示にしたがい、本件審査請求の調査のため、二度にわたり、原告の事務室および原告代表者の母である西村末子宅で代表者および西村末子らから事情聴取をしたほか、参加審判官の指示に基づき、原告の役員報酬について東京国税局直税部の意見を徴したことが認められ、これらの行為が、右のような法定の権限に基づく適法なものであることはいうまでもない。緒方が、つとに、第一次審査請求において、担当協議官として原告代表者および西村末子から事情聴取をしていることは当事者間に争いがなく、証人緒方奎太の証言によれば、緒方は、本件審査請求において、東京国税不服審判所の管理課に保管されている右第一次審査請求の事件記録を検討していることが認められるが、このことは、なんら国税副審判官に認められている前記調査権の範囲を逸脱するものではなく、むしろ、審理、調査の目的に適うものと考えられる。そして、その他本件裁決の基礎となる議決の資料収集手続上に、その公正さを疑わせるような点は、証拠上全く窺われない。

したがつて、原告の右主張もまた採用することはできない。

よつて、本件裁決が違法であるとして、その取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高津環 上田豊三 篠原勝美)

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